
「電子帳簿保存法に則って契約書や領収書などをクラウド保存したいけれど、そもそもクラウドストレージへの電子保存は大丈夫?」
電子帳簿保存法に対応して各種書類の保存先を決める際は、このようにクラウドストレージでも問題ないのか不安に感じられるものです。
結論からいうとクラウドストレージへの電子保存に問題はありませんが、保存時は電子帳簿保存法の要件を満たすことが重要です。
そこで今回は、電子帳簿保存法に則った電子保存書類の適した保存先を解説しつつ、クラウドストレージに保存するときのポイントを解説していきます。
目次
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法とは、国税や取引に関係する書類の電子化・電子保存を認め、それに関するルール・要件をまとめている法律になります。
電子帳簿保存法自体は以前から施行されている法律ですが、最近は2022年の法改正によって要件が一部緩和されたため、電子帳簿保存法での書類電子化は以前より取り入れやすくなりました。
電子帳簿保存法の対象書類は、たとえば以下が挙げられます。
【国税関係帳簿】
- 仕訳帳
- 総勘定元帳
- 売掛帳
- 買掛帳
- 現金出納帳
【決算関係書類】
- 貸借対照表
- 損益計算書
【取引関係書類】
- 請求書
- 見積書
- 注文書
- 納品書
- 領収書
上記の書類は、要件を満たすことで、電子データ保存またはスキャナ保存が可能になります。
電子帳簿保存法に即して各種書類を保存する際は、要件について理解を深めることが必要不可欠です。
電子帳簿保存法に則って書類を電子化する際の保存先
電子帳簿保存法に則って決算書や請求書などの各種書類を保存する場合は、保存先は以下の選択肢が挙げられます。
- 各種外部メディア(HDD、USBメモリなど)
- 自社サーバー・ハードディスク内
- クラウドストレージ
保存先にはさまざまな選択肢があり、保存要件を満たしていれば、基本的に「〇〇は△△へ保存する」などの決まりは設けられていません。
それぞれの選択肢の特徴を整理してみましょう。
1. 各種外部メディア
電子帳簿保存法に則って書類を電子化する場合、まず保存先の選択肢の一つになるのは外部メディアです。
外部メディアは、主に以下が挙げられます。
- SDカード
- USBメモリ
- 外付けハードディスク
- CD・DVD
外部メディアは持ち運びできることが利点の一つのため、安全に持ち運べば、クラウドのように社外からでも指定の書類を確認できます。
外部メディアのデメリットは、どのファイルがどのメディアに保存されているかの管理が必要、容量が少ない、メディアの劣化によりデータ破損が起こる可能性があるためバックアップが必要、定期的なバックアップが壊れていないかの確認が必要、メディアの紛失事故、勝手な持ち出し等があります。
一次保存場所をクラウドストレージにして、どうしても持ち出す必要がある場合は、外部メディアにした方がよいでしょう。リスクを下げるには外部メディアへ複製も禁止した方が安全です。
ただし、メディア自体の保管・持ち出しルールについては、情報漏洩を防ぐために明確に決めておくことが肝心です。
2. 自社サーバー、NAS、ハードディスク内
自社サーバーやNAS、PCのハードディスク内を、電子帳簿保存法に則って電子化した書類の保存先に選ぶ選択肢もあります。
自社サーバーやNAS、PCハードディスクはいわば閉じられた環境下の大容量ストレージになるため、オフラインで閲覧ができ、情報漏洩リスクが少ないことが大きな特徴です。ただし昨今は、ランサムウェア攻撃にあい情報漏洩やデータ破壊される事故が多数報告されています。
PCのハードディスクの保存は、ハードディスクの故障やPCの故障のときにデータを紛失するためおすすめしません。
自社ファイルサーバーやNASでの運用の場合のデメリットは、ハードディスクの故障に備えてバックアップが必要、容量不足になったときの増設作業・データ移行作業、事故に備えて事故対策マニュアルや訓練が必要、常に最新のセキュリティパッチの適用が必要、社外からのアクセスやテレワーク・リモートワークでのアクセスではVPNなど別途ネットワーク設計が必要などがあります。
とくに昨今はVPN機器のセキュリティホール(最新のセキュリティパッチの適用不足)からのランサムウェア攻撃による情報漏えい事故が増えています。
3.クラウドストレージ
電子帳簿保存法に則って各種書類を電子保存するときは、保存場所はクラウドストレージも選択肢の一つになります。
クラウドストレージも電子保存する保存先として、要件を満たしていれば問題なく活用することができ、クラウドストレージならではの良さを活かせることがメリットです。
詳細は後述しますが、クラウドストレージが保存先になる場合、ネットに接続できる場所であればどこからでもアクセスできることは大きな強みになるでしょう。
リモートワークや出張、外回りなどの際もクラウドストレージは活かしやすく、現代ならではの柔軟な働き方と相性が良いのが特徴です。
ただしクラウドストレージはセキュリティレベルが高いサービスを選ぶことが重要です。
クラウドストレージはファイルアップロードや転送の際に脅威にさらされやすいため、暗号化通信やIDとパスワードが漏洩しただけではアクセスできないようにする端末認証や二要素認証など、セキュリティ機能をフル活用することが重要です。
電子帳簿保存法対応の書類をクラウドストレージに保存するメリット

電子帳簿保存法に則って各種書類をクラウドストレージに保存することは可能ですが、実際に保存する際は、具体的にどのようなメリットが望めるのか気になるところです。
主なメリットは、以下が挙げられます。
- 容量を圧迫しにくい(ハードディスク増設作業が不要)
- バックアップ機能
- 社外からでも閲覧・管理が可能
- サービス自体が電子帳簿保存法に対応している
- BCP対策にも効果的
いずれも業務効率化のうえで重要なメリットといえます。
メリットの詳細を一つひとつチェックしていきましょう。
1. 容量を圧迫しにくい
電子帳簿保存法に則ってクラウドストレージに書類を電子保存するときは、まず、容量を圧迫しにくいという利点があります。
クラウドストレージは従量課金制でデータ容量を拡張していけるプランが多いため、利用した分料金はかかるものの、容量拡張のための手間を自社でかける必要がありません。
自社ファイルサーバーやNASではストレージ容量不足になったときに増設作業やデータ移行作業が大変です。
基本的にメンテナンスや必要な手続きはベンダーに任せたうえで、必要な容量を使うことができるため、大量の書類を保存するときも利用しやすいといえます。
2. バックアップ機能
クラウドストレージサービスは、サービス提供者がお客様のデータを紛失しないように何重にもバックアップをとっています。
社内ファイルサーバーやNASではなかなか定期的なバックアップやバックアップファイルが破損していないかのチェックなどは運用しきれないことがありますが、クラウドストレージであればサービス提供者が日頃からその作業をしてくれます。
3. 社外からでも閲覧・管理が可能
電子帳簿保存法に対応してクラウドストレージに書類を電子保存すれば、社外からでも閲覧・管理がスムーズにできるようになります。
クラウドストレージはオンライン上で利用できるストレージサービスのため、認証やその他のセキュリティ管理がしっかりしていれば、社外からでも自由にアクセスすることで柔軟な使い方ができます。
閲覧・管理できる場所が社内に限定されなければ、あらゆる場所で業務を進められるため、業務効率化にもつながります。
リモートワークも導入しやすくなり、働き方の可能性を広げられることも魅力といえます。
4. サービス自体が電子帳簿保存法に対応している
クラウドストレージを電子保存の保存場所に選んだときは、クラウドストレージ自体が電子帳簿保存法に対応していることが多いため、より便利に活用できることが考えられます。
電子帳簿保存法対応のクラウドストレージには、たとえば以下のような機能が搭載されています。
- 編集・削除記録機能による真実性の確保
- 検索機能による検索性の確保
- AI-OCR機能
クラウドストレージ自体に電子帳簿保存法に対応した機能を搭載していれば、電子保存するうえでしっかりと要件を満たすことができるでしょう。
自社ファイルサーバーやNASでは、電子帳簿保存法に則っているのか確認をしたり、則った運用マニュアルを整備したり、要件を満たすために余分な作業が必要になったりとデメリットが多いです。
請求書や領収書に書かれた取引先名、取引金額、書類発行日などを自動認識するAI-OCR機能を持った電子帳簿保存法対応クラウドストレージも増えてきています。業務効率も改善され人件費を抑えることができるのでAI-OCR機能がついた電子帳簿保存法対応クラウドストレージを選択するとよいでしょう。
必要に応じて、電子帳簿保存法関連の質問も含めたサポート窓口が利用できる場合もあります。
5. BCP対策にも効果的
電子帳簿保存法に則して書類を電子保存する場合、保存先としてクラウドストレージを選べば、BCP対策にも非常に効果的です。
BCP対策は、事業継続性を担保するためのリスクマネジメントの一つです。
企業は万が一の災害やシステム障害、サイバー攻撃などに備えて、事業継続性を担保できるように、何らかのリスク対策を普段から講じておく必要があります。
クラウドストレージはオンライン上のストレージサービスのため、クラウド上に大事な書類データがあれば、万が一災害などで社内サーバーが物理的に破損したときでも被害を受けにくいのが利点です。
データとしてクラウドストレージに保存してあれば、時間の経過とともに書類が劣化する恐れもありません。
書類をクラウド管理することでBCP対策にも役立てたいときは、電子帳簿保存法に則った電子保存の保存先も、積極的にクラウドストレージを選びたいところです。
電子帳簿保存法対応の書類をクラウドストレージに保存する際の注意点

電子帳簿保存法に則ってクラウドストレージに書類を電子保存する場合は、クラウドストレージならではの良さを活かしたメリットがさまざまありますが、反対にクラウドストレージだからこそのデメリット・注意点があることも事実です。
そのためクラウドストレージに電子保存するときは、以下の注意点をチェックしておきましょう。
- 情報セキュリティの注意
- クラウドストレージのサブスク料金がかかる
- サーバーダウンや障害などで閲覧できない場合がある
では、デメリットを一つひとつ詳しく見ていきましょう。
1. 情報セキュリティの注意
クラウドストレージに電子保存する場合は、セキュリティリスクに注意する必要があります。
社外からスムーズにアクセスできるからこそ、情報持ち出しなども起こりやすく、情報漏洩リスクは高いといえます。
よって、クラウドストレージに電子帳簿保存法対応の電子保存データを保存する場合は、さまざまなセキュリティ機能の活用が欠かせません。
主に活用できる機能は、以下が挙げられます。
- 接続元IP制限
- 端末認証や多要素認証
- アクセス権限管理
- 監査ログ機能
- 暗号化通信
セキュリティ水準の高いクラウドストレージは、上記のようなセキュリティ機能が充実しているのはもちろんのこと、そもそもセキュリティに優れたかたちでシステムを構築しています。
1-1. 接続元IP制限
接続元IP制限は、オフィスからしかクラウドストレージにアクセスできないようにする機能です。通常、オフィスではインターネットプロバイダ契約をして回線を借りますが、そこで固定IP付与のオプション契約を追加することでオフィスのIPアドレスが固定化されます。
クラウドストレージサービス側でこの固定IPからしかアクセスできないようにすることで、社外からアクセスできないようにすることができます。こちらもランサムウェア攻撃者などの悪意ある攻撃者からの攻撃も防ぐことができます。
ただしこの場合は、テレワークやリモートワークなど社外からのアクセスができなくなります。
VPN機器などで暗号化通信で社外からアクセスできますが、VPN機器はセキュリティパッチ適用不足が原因でランサムウェア攻撃の事件が多数発生しているため運用には十分注意が必要です。
1-2. 端末認証と多要素認証
端末認証と多要素認証は、IDやパスワードが漏洩してもアクセスできなくできます。
従業員の誰か1名でも安易なパスワードを設定しているだけで情報漏洩となってしまってはリスクが高すぎます。端末認証または多要素認証があるクラウドストレージを選択しましょう。
端末認証は、管理者から許可された端末からのみアクセスできる機能です。この機能がないと従業員の家から個人のPCでログインされて簡単に機密データを取得することができてしまいます。
会社のPCからしかアクセスできないようにすることで安全になります。
もちろんランサムウェア攻撃者などの悪意ある攻撃者からの攻撃も防ぐことができます。テレワークやリモートワークにも対応しているのが良い点です。
1-3. アクセス権限管理
全従業員に全ファイルやフォルダを閲覧できるようにすると悪意ある人による不正侵入があったときに情報漏洩範囲が広くなります。
また従業員による持ち出しなども含め、各従業員がアクセスできる閲覧範囲を限定した方が安全になります。
権限管理を詳細に設定できるクラウドストレージを選択しましょう。
1-4. 監査ログ機能
監査ログは、誰がいつログインしたか、誰がいつどのファイルを閲覧したか、ダウンロードしたかなどを記録する機能です。
退職直前に関係ない顧客情報や設計書、納品物などを大量にダウンロードしているなど、悪意ある人が発覚した場合に損害賠償請求や刑事事件となったときの証拠になります。また監査ログ機能があることを従業員に周知しておくことで不正をしない抑止力になります。
1-5. 暗号化通信
暗号化通信は、クラウドストレージの利用中の通信をすべて暗号化するものです。通信経路上に悪意ある人がいても盗聴されることがなく安心です。
昨今はほとんどのサービスが暗号化通信に対応しています。
電子帳簿保存法に則って書類を電子化し、クラウドストレージに保存する場合は、セキュリティ性に優れたサービスを積極的に導入しましょう。
2. クラウドストレージのサブスク料金がかかる
クラウドストレージを電子保存の保存先として活用することは、業務効率化につながるという面では非常に効果的ですが、利便性が高い分コストがかかる点も注意したいポイントです。
特にこれまでクラウドストレージを多く活用してきていない企業が、電子帳簿保存法対応に伴ってクラウドストレージを本格的に取り入れる際は、毎月のサブスクのコスト管理に注意しましょう。
基本的にクラウドストレージの料金は、利用できるユーザー数やデータ容量、利用できる機能などで変動する仕組みです。
大量に書類を保存したり、多くのユーザーで管理したりすれば、その分高い料金がかかることになります。
クラウドストレージは初期費用こそほとんどかからず、気軽に導入できることが魅力ですが、毎月一定額のサブスク料金がかかる点には注意が必要です。
比較となるのは、社内ファイルサーバーやNASになりますが、この場合はトータルコストオーナーシップという考え方をする必要があります。
社内で運用すると、初期費用として、機器の購入と導入作業費がかかりあとは電気代しかかからないと思いがちですが、実際には、日々のバックアップ作業費、バックアップファイルが壊れていないかの確認作業費、機器の故障に備えた障害対策マニュアルの整備とその訓練費、障害発生時の復旧作業費、ストレージ容量不足のときの増設作業費、データ移行作業費、OSや機器のセキュリティパッチの適用作業費などがかかっています。
それらをクラウドストレージサービス事業者が効率よく行ってくれているため実際には自社よりもコストが低く、セキュリティレベルが高く、障害時の復旧時間も短くなっています。
3. サーバーダウンや障害などで閲覧できない場合がある
クラウドストレージに電子帳簿保存法対応の書類を電子保存する際は、サーバーダウンやシステム障害などのリスクにも注意したいところです。
とはいえこれは社内ファイルサーバーやNASでも同様に障害は起きます。
社内ファイルサーバーやNASでハードディスクが破損しデータが消失した場合、データの復旧は困難です。
クラウドストレージサービス提供者は、社内ファイルサーバーに比べ何重にもバックアップをとり、さまざまな機器の障害でもデータを消失しないような体制になっています。また障害からの復旧に対してもプロであり、顧客の信用を落とさないようにするためにスピーディに復旧できる可能性が高いでしょう。
まとめ
電子帳簿保存法に則って各種書類を電子保存する場合、保存先として適切な場所については、原則として決まりがありません。
重要なのは保存要件で、要件を満たすことができる環境であれば、保存先は社内サーバーでもクラウドでも、外部メディアでも問題はありません。
その際に、有効活用しやすい保存場所としては、クラウドストレージが挙げられるでしょう。
クラウドストレージに電子保存すれば、社外からでもアクセスでき、業務効率化につながる可能性があります。
しかしクラウド保存には情報漏洩などのセキュリティにリスクが伴うことも事実のため、必要なセキュリティ対策は欠かさないようにしましょう。