
電子帳簿保存法では、見積書も電子保存が認められています。
そのため見積書の電子化を検討する際は、電子帳簿保存法で定められている保存要件の確認が必須となります。
そこで今回は、電子帳簿保存法における見積書の保存要件や保存期間、適した保存場所などを解説していきます。
電子帳簿保存法に対応して見積書を電子保存すべきか迷ったときは、あわせて電子化のメリットも確認しながら、適切な保存方法を検討していきましょう。
目次
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法とは、国税関係・取引関係の各種書類を電子的に保存することを認め、その要件をまとめた法律になります。
IT活用がさかんになり、クラウドストレージや便利な業務システムを頻繁に利用するようになった現代では、書類のデジタル保存・ペーパーレス化の需要が高まっています。
電子帳簿保存法はもともと以前から施行されている法律ですが、そういった時代の流れと最近の法改正が影響し、昨今注目を集めていることが特徴です。
なお、今回触れていく見積書は、電子帳簿保存法において電子保存可能な「取引関係書類」に含まれます。
保存の要件を満たすことを忘れなければ、見積書も電子保存できるため、電子保存の方法とそのルールがわからないときは電子帳簿保存法とともに理解を深めておきましょう。
見積書とは?見積書明細書・見積書控えとの違い
見積書とは、サービスや商品の注文を受けた側が具体的な金額・内訳・提供期間などを示すために発行される書類です。
そのためサービス・商品を顧客に提供する企業は、実際に契約する前に見積書を提示することが多い傾向にあります。
契約前に見積書を提示する目的は、具体的な金額やサービス内容についての齟齬を防ぐためです。
見積書なしで契約してしまうと、金額の目安やサービス内容などが明確化されていないせいで、受注側と発注側でトラブルになる恐れがあります。
実際に見積書なしで受注が行われるケースについては、高額請求などのトラブルが後を絶ちません。
電子帳簿保存法で見積書を電子保存する際は、万が一の間違いを防ぐためにも、見積書の概要も整理しておきましょう。
見積明細書・見積書控えとの違い
見積書について理解を深める際は、あわせて見積書明細書や見積書控えとの違いも整理しておきたいところです。
見積明細書は、見積書の明細をまとめた書類になります。
一般的にはまとめて見積書と呼ぶことが多く、見積書ではなく見積明細書と書かれた書類のみを発行するケースもあるため、見積明細書=明細書という認識で問題はないでしょう。
そのため見積明細書も、電子帳簿保存法では電子保存が可能になります。
続いて「見積書控え」ですが、これは自社で発行した見積書で、顧客に渡したものとは別で自社で控えとして持っておくものです。
控えのため内容は複製されたものですが、見積書控えも保存は必要になるため注意が必要です。
なお、見積書控えも見積書と同様に、電子帳簿保存法の要件を満たすかたちで電子保存が可能になります。
電子帳簿保存法に対応して見積書を電子保存するには

ではここからは、電子帳簿保存法に則り見積書を電子保存する際に、具体的にどのような保存方法・要件があるのかを整理していきます。
電子帳簿保存法では、見積書の保存方法は次の2パターンがあります。
- 紙で発行された見積書はスキャナ保存ができる
- 電子取引の見積書は電子データのまま保存
保存方法は、好きなほうを選べるわけではないため注意が必要です。
どのような形態で見積書を受け取ったかによって正しい保存方法は変わるため、それぞれの要件を見てみましょう。
1. 紙で発行された見積書はスキャナ保存ができる
紙で受け取った見積書は、電子帳簿保存法の保存要件に則り、スキャナ保存が可能です。
スキャナ保存とは、スキャナーでのデータ化やカメラでの写真撮影などの方法で、電子保存することを指します。
そのため紙の見積書は、電子保存を望む場合は紙のまま保存しておく必要はなく、スキャナ保存が完了すれば原本は破棄することができます。
スキャナ保存については、以下が保存要件となるため、事前にチェックしておきましょう。
- 入力期間の制限
- タイムスタンプの付与
- 200dpi以上の解像度でスキャンしている
- カラー画像またはグレースケールでスキャンしている
- バージョン管理
- システム概要書の備え付け
- 見読可能装置等の備え付け
- 検索性の確保
- 速やかに出力できる
見積書は取引関係書類の中でも「一般書類」の分類になるため、もう一つの分類である「重要書類」とは若干要件が異なります。
スキャナ保存する際は、要件を混同しないように注意しましょう。
上記の要件を満たすことで見積書はスキャナ保存ができるため、事前にチェックすることが大切です。
なお、要件が多く複雑に感じられるかもしれませんが、2022年の法改正までのスキャナ保存の要件はさらに厳しく決められていました。
法改正では要件の緩和がなされたため、従来と比べると、スキャナ保存のハードルは下がっているといえるでしょう。
2. 電子取引の見積書は電子データのまま保存
電子取引の見積書に関しては、電子帳簿保存法では、電子データのまま保存することが求められます。
ここでいう電子取引とは、紙でのやり取りではなく、メールやチャットツール、クラウドサービスなどを通じて電子的に取引したものを指します。
たとえば、以下のケースが挙げられます。
- 見積書のPDFデータをメール添付で受け取った
- 見積書をメールに直接書いてもらった
上記はともに電子取引で見積書を受け取ったことになるため、その見積書は電子データのままで保存する必要があります。
電子データのまま保存する際の保存要件は以下のとおりです。
- 改ざん防止措置(訂正削除履歴保存、タイムスタンプ付与など)
- 検索性の確保
- 見読可能装置の備え付け
電子取引はスキャナ保存と比べると守るべき要件は少ないですが、要件を満たしていない部分があると、電子帳簿保存法違反に該当するため注意しましょう。
電子帳簿保存法における見積書の電子保存期間
電子帳簿保存法において見積書は、スキャナ保存や電子取引の電子データ保存ができますが、実際に保存する際は「どのくらい保存しておけば良いのか」などの疑問が生まれるものです。
電子帳簿保存法では、見積書の保存期間は以下のように定められています。
- 法人:原則として7年
- 個人事業主:原則として5年
ただし例外もあり、法人の場合は、欠損金の繰越控除を受けるときは、10年間の保存が義務付けられています。
また、保存期間の起算日については、見積書の発行日・保存日ではないためくれぐれも注意が必要です。
起算日は【その事業年度の確定申告の提出期限の翌日】となります。
電子帳簿保存法における見積書の適切な保存場所

電子帳簿保存法では、見積書の電子保存が可能ですが、実際に保存する際は適した保存先が気になるところです。
基本的に保存先については決まりはなく、スキャナ保存または電子取引の電子データ保存の要件を満たしていれば、保存場所はさまざまな場所を選択できます。
そのため保存場所の選択肢としては、以下が挙げられるでしょう。
- 社内サーバー、PC
- 外部メディア
- オンラインクラウドストレージ
では、以下からそれぞれのメリット・デメリットなどを整理していきます。
1. 社内サーバー
電子帳簿保存法に則り見積書を電子保存する場合、社内サーバーやPCのハードディスクが、最初の選択肢として挙げられるでしょう。
社内サーバーやハードディスクに保存するメリットは、セキュリティがとにかく強固であることです。
クラウドと違って社内サーバーやハードディスクは、基本的にオフライン環境で参照するため、社外からアクセスすることはできません。
これは第三者にデータを見られない対策につながり、重大なデータを守るセキュリティ対策としては有効です。
ただし、社内サーバーに保存すると、先ほども触れたとおり社外から閲覧・管理することはできません。またサーバーの故障やPCの故障によるデータの消失のリスク、バックアップや故障時の復旧作業、データ移行作業なので手間がかかります。
クラウド活用がメジャーな昨今、この不便さが業務効率を落とす要因になる可能性はゼロではないでしょう。
一長一短の特徴があるため、書類の重要性を考慮したうえで社内の方針によって決めることが重要です。
2. 外部メディア
見積書を電子保存する際は、外部メディアに保存する選択肢もあります。
外部メディアの例は以下のとおりです。
- 外付けハードディスク
- CD・DVD
- SDカード
- USBメモリ
上記の保存場所も、オンライン環境で閲覧するものではないため、社内サーバーと同様に一定水準以上のセキュリティは保たれているといえます。
また、メディア自体を持ち運べば、必要に応じて社外からでも閲覧は可能になります。
ただし、以下のようなデメリットには注意が必要です。
- メディアを管理する手間・スペースが必要
- メディアを持ち出す際は紛失リスクが伴う
- 容量が限定的
特に管理コストがかかることや紛失リスクが伴うことなどは、懸念点としてあらかじめチェックしておきましょう。
3. オンラインクラウドストレージ
見積書は、オンラインクラウドストレージでも電子保存できます。
オンラインクラウドストレージはクラウド上の保存領域のため、社外にいても気軽にアクセスできる点は大きなメリットといえます。
必要に応じてどこからでも閲覧・管理ができるため、業務効率化をもたらす可能性があります。
データ容量無制限のオンラインストレージであれば、容量を気にせずに利用可能です。
ただし、クラウドならではのデメリットとして、セキュリティリスクが高い点には注意が必要です。
クラウドはオンライン環境で利用するため、重要書類を電子保存しておくと、サイバー攻撃の標的になる恐れがあります。
結果として情報漏洩などの重大インシデントが起これば、会社にとっては大きな損失になります。
オンラインストレージに見積書を電子保存する場合は、高水準のセキュリティ機能を活用し、データを保護することが大切です。
見積書を電子保存するメリットまとめ
見積書を電子保存する際は、具体的なメリットを整理しておきましょう。
「そろそろ見積書を含む各種書類を電子化すべきか」と迷ったときも、メリットから判断していくことは重要といえます。
主なメリットは、以下が挙げられます。
- 紙保存に関わるコストがかからない
- 保存するスペースを取らない
- 自然災害に備えられる
では、重要なポイントをそれぞれ整理していきます。
1. 紙保存に関わるコストがかからない
見積書を電子帳簿保存法に則り電子保存すれば、紙保存に関わるコストを大幅に削減できるでしょう。
紙保存の際は、以下のような費用がかかります。
- 紙代
- インク代
- 封筒代
- ファイル代
- 倉庫代
- 付箋(タグ)代
- 過去の書類を探すコスト(人件費)
- 社内で過去の書類を情報共有するコスト(人件費)
このような備品をなくして書類を全般的に電子化できれば、大きな経費削減効果を得られることは間違いないでしょう。
ペーパーレス化につながることで、企業のイメージアップにもつながります。
2. 保存するスペースを取らない
電子帳簿保存法に則り見積書を電子保存すれば、保存スペースを削減できます。
そのため見積書を含む書類の電子化はオフィスの省スペース化に期待でき、よりすっきりとした環境で業務を進められるようになる可能性があります。
新たにスペースが開けば、別の場所として有効活用でき、社員が働きやすい環境を作りやすくなるでしょう。
3. 自然災害に備えられる
見積書を電子化すれば、紙保存と比べて、自然災害に備えられるメリットも望めるでしょう。
紙で見積書を保存しておくと、自然災害で万が一被災するようなことがあれば、物理的に破損・劣化してしまう可能性があります。
しかし電子化してクラウドストレージなどに保存しておけば、重要な書類がなくなってしまうことがなく、事業の継続性を守れるでしょう。
被災しても早い段階で通常どおりの業務に戻れる可能性があるため、災害対策の意味でも、電子化やクラウドストレージの利用はおすすめといえます。
まとめ
見積書は、電子帳簿保存法に則り、スキャナ保存や電子取引の電子データ保存が認められています。
紙のまま見積書を保存するやり方に不便さを感じたときなどは、電子帳簿保存法に則り、電子化を検討しましょう。
ただし電子帳簿保存法では、保存要件を満たすことが重要事項となります。
具体的な保存要件や保存期間などの決まりをチェックし、適切なかたちで見積書の電子保存を検討しましょう。